COLUMN
従来、法人税に関する業務は以下の2区分ととらえて業務にあたってきましたが、BEPSプロジェクトに伴う改正によりグローバル大企業という別区分が生じたと考えています。主観に基づく私見ですが以下ご紹介します。
1.中小法人(≒非上場企業)の税務業務(顧客数:多い、専門家:多い、専門性:低い、報酬額:安い)
我が国の法人(400万社弱)の大多数が資本金1億円以下の中小法人です。最近では税負担軽減のため上場企業でも無償減資により中小法人化するケースも増加していますが、基本的には非上場企業です。一般的には個人事務所が関与することが多い領域です。
申告業務のみで考えればそこまで専門的な知識は不要です。いわゆるレッドオーシャンであり業務工数に見合った報酬が得にくくなっています。税理士一般の認識では資産税などに比して簡単な業務と考えられている点が、従来下記2の業務をメインにしてきた私などからすると意外でした。
2.大法人(≒上場企業)の税務業務(顧客数:比較的少ない、専門家:比較的少ない、専門性:高い、報酬額:比較的高い)
資本金1億円超の大法人は上場企業(約4千社)が多いです。また非上場でも業種の縛りなどで資本金が多額になっている会社もあります。
上場企業の法人税務を行うには、税法の知識に加えて金商法等の各種会計基準の知識が不可欠となります。会計基準に基づく処理を税務基準に調整する必要があるため申告書の処理が複雑化します。税効果会計が適用されるため、会計処理と税務処理をトータルに考えないと決算が組めません。
税法については事業税について外形標準課税が適用されます。グループ会社を有するケースが多く、組織再編税制、グループ法人税制といった専門的な知識が求められます。最近ではグループ通算制度(旧連結納税制度)を適用する会社も多いです。
国内大手税理士法人が得意とする領域ですが、当職のメインの業務領域もこの2のエリアとなります。複数の分野の専門知識を要するため比較的報酬額も高額となります。
3.グローバル大企業(=上場企業)の税務業務(顧客数:僅少、専門家:僅少、専門性:高い、報酬額:超高額)
海外に関係会社を保有する会社の申告にあたっては国際税務(外国子会社合算税制、外国税額控除、移転価格税制等)のノウハウが必要となります。海外関係会社の税負担も考えてタックスプランニングを行う場合、海外の税制に関する知識も必要となるため、BIG4と呼ばれる国際会計事務所でないと対応が難しく、税務業務の委託コストも各段に上昇します。
さらには、近年、国際的な租税回避を抑止するBEPSプロジェクトを起点として以下のような改正が行われています。
(1)移転価格税制に係る文書化義務:連結売上1,000億円以上の多国籍企業グループが対象
(2)グローバルミニマム課税:連結売上7億5千万ユーロ(1,200億円程度)以上の多国籍企業グループが対象
これらは元々、米国巨大IT企業などが行う過度な節税策を抑止するための改正であり、日本企業への税負担の影響はそこまで大きくないと言われています。むしろ問題となっているのが税務申告のための膨大な事務負担のようです。上記(2)の対象企業は1,000社弱とのことで各担当者の苦労がしのばれます。
今回の投稿で企業の方に知ってもらいたいと思ったことは法人税務と言ってもいろいろな領域があり、それにより適した専門家や報酬額が異なってくるということです。また税理士の方も中長期でどの領域で仕事をしていきたいかを考えて勤務する会計事務所を選ぶとよいと思います。
宮口徹
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