COLUMN
マンションオーナーが賃貸マンション建設時の消費税を還付するためにマンション敷地に自販機を設置する「自販機スキーム」については税制改正が繰り返され、節税はほとんど不可能と言われるに至りました。以下、スキームの概要と税制改正の変遷について整理します。なお、簡略化した記載をしていますので実務にあたられる際は法令や国税庁のサイトをご確認ください。
自販機を設置しない場合
賃貸マンションを建設する場合、当然に消費税の負担が生じます。仮に建設費が5億円かかる場合、現行税率(8%)では4千万円もの課税が行われることになります。支払った消費税は課税売上割合(課税売上高÷全売上高)分しか還付されないため、マンションの賃貸収入が非課税売上になる関係で課税売上割合はゼロ%となり、課税事業者を選択したとしても消費税の還付は認められません。
自販機スキーム(基本形)
そこで、マンション敷地に自動販売機を設置し、販売手数料を発生させます。販売手数料は課税売上になりますので、支払消費税の還付が可能となります。前提として課税事業者になる必要があるので「課税事業者の申請」を行います。仮に消費税を支払った期の課税売上が販売手数料のみであれば、課税売上割合は100%となり、消費税全額の還付が可能となります。
ただし、「調整対象固定資産(100万円以上の固定資産)」というルールがあり、資産取得後3期間の平均課税売上割合が著しく変動した場合、控除税額を再計算して差額を追加納付することになります。著しい変動とは
①(マンション取得年度の課税売上割合-3期通算課税売上割合)÷マンション取得年度の課税売上割合≧50%、かつ、
② マンション取得年度の課税売上割合-3期通算課税売上割合≧5% の場合です。
マンション賃貸開始以降は売上の大部分が非課税売上になるので、上記ルールにトリガーしてしまい、1期目に還付された消費税を3期目に納税しないといけなくなります。そこで申請により3期目は免税事業者を選択して追加納税を回避するのが自販機スキームの基本形です。
税制改正(1)と対応策
上記自販機スキームに対しては、H22年度改正により、申請により課税事業者となった場合は3年間は免税事業者に戻れなくすることで一定の抑止が図られたのですが、①課税事業者の申請をしてから休眠会社にしておき3期目に建設費の消費税を全額控除したり、②申請ではなく、金の売買など課税売上高を1千万円以上作ることにより課税事業者となることで消費税を全額控除するという抜け道が残りました。
税制改正(2)と対応策
そこで、H28年度改正により、「高額特定資産(1,000万円以上の棚卸資産・固定資産)」を取得した場合、取得した翌事業年度から課税事業者となり、3期は免税事業者に戻れないという措置がとられました。この改正により自販機スキームは終焉を迎えたと一般的には言われるようになりました。
ただし、 免税事業者に戻れないのであれば、調整対象固定資産の取扱いを回避すべく課税売上割合をコントロールするなどでして抗う案も挙げられています。
例えば、1期の課税売上割合が100%、2期と3期が0%の場合、変動率は(1期100%-通算0%)÷1期100%=100%≧50%となりますが、2期と3期に非課税賃料収入と同額の金の売買収入を計上すると、変動率は(1期100%-通算50%)÷1期100%=50%となり、調整対象を回避できることになります。
こうしたスキームについて課税当局も注視しているとの情報もありますが、資産家の資産管理会社が不動産運用と合わせて金投資をすること自体には違和感はないのでうまく設計すれば実務的にワークする気もします。
タイトルに書いた通り、納税者と課税当局のいたちごっこであり、今更感はありますが、備忘のためにブログに載せました。
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