宮口公認会計士・税理士事務所

代表コラム

COLUMN

非上場会社の株価評価方式の見直しについての私見

税務
2016.2.5

平成28度税制改正においては改正項目とはなりませんでしたが、経済産業省の税制改正要望で非上場会社の株式評価方法について見直しが提言されています。

アベノミクスで株価が約2倍になったことに引きずられて(今年は乱高下していますが)、非上場会社の株価(類似業種比準価額)が上がり、税負担の増大によって円滑な事業承継の妨げになるという趣旨ですが、全くの同感です。

税制改正要望では具体的な見直し項目は挙げられてはいませんでしたが、類似業種比準方式を採用していること自体の見直しをすべき時期に来ているのかもしれません。主に以下の理由によります。

①自社の業績に全く変化がないにも関わらず、株式市場の上昇のみにより、相続税が増加するのは納税者に納得感がない。特に現政権下ではアグレッシブな金融政策がとられるので株価のボラティリティが増大しており、いつ贈与するか(相続が発生するか)によって、税額が倍にもなれば半分になるといった状況が生じる。
②企業の優勝劣敗が進む中、利益や資産規模以外の要素(ブランド力やマーケットシェア)で株価が決まる傾向が強まっている。
③市場株価は企業の「連結ベースの会計上の予想利益」に基づき形成されるにも関わらず、税法は「単体ベースの税務上の過去所得」に基づき比準される。税務と会計の乖離が拡大するとともに連結決算が一般化する中では理論的な基礎を失いつつある。
④業種別に国税庁から株価が公表されますが、どの会社がサンプルとなったのか明らかにされていない。業種の入れ替えなどの影響により、年度により数値の連続性が絶たれるケースなどもある。

そもそも類似業種比準方式の存在意義は、純資産価額を超える企業のフローの収益力を評価に反映させることにあると理解しています。そうであれば、支配株主の評価方式を純資産価額に一本化しつつ、現在の営業権の評価ルールを精緻化し、優良企業については一定ののれんを乗せる方がよいのかもしれません。

一方で、純資産価額方式は、換金性のない事業用資産が高く評価されるという欠点がありますので、DCF方式ではないですが、事業用資産は一括してフローの収益力により評価しつつ、金融資産など事業用資産以外の資産のみ別途換金価値を加算するといった考え方も合理性を有するのではないかと思います。

また、純資産価額方式について現状は賞与引当金、退職給付引当金などの引当金は確定債務でないものとして純資産から控除することが認められませんが、退職給付債務などは金額も多額になり、企業の売買などでも当然に考慮されます。労働当局に届けられた制度があり、当該制度に基づいて支給が適正にされているのであれば、期末における退職金の自己都合要支給額を減額する措置を入れるべきではと思います。

なお、上場株式の評価については現状は時価を基準に評価されますが、オーナー株主については一定のディスカウントをしてあげてもよいのではと思います。市場株価は流通している(一般的には少数の)株の取引価格であって、オーナーが当該価格で保有株を処分できるわけではありませんので。出国税の創設とのバランスで考えて頂きたいところではあります。

以上、思う所を勝手に書きましたが、株式評価については当社のお客様の多数を占める経営者の方に大きな影響がある項目ですので、議論の動向をウオッチして行きたいと思います。

宮口

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