宮口公認会計士・税理士事務所

代表コラム

COLUMN

IPO企業のIFRS適用

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2016.6.17

コメダ珈琲が6月末に上場することになり久々の大型案件として話題になっていますが、同社はIFRS(国際会計基準)を任意適用しています。従来は未公開企業はIFRSの適用は認められませんでしたが、2013年に適用要件が緩和されて徐々に適用事例が出てきています。

【IFRS適用のIPO企業】
2014年10月:すかいらーく
2014年12月:テクノプロホールディングス
2015年11月:ベルシステム24ホールディングス
2015年12月:ツバキ・ナカシマ

(詳細は東証HPを参照)

上記の会社に共通するのは投資ファンドの出資会社であり、投資ビークルと対象会社との合併などにより、会計上、多額ののれんが発生している点です。日本基準ですとのれんは20年以内の合理的な期間で償却されますので、純資産及び利益の下押し要因となりますが、IFRSですとのれんの償却が不要ですので、財務体質が強化されるとともに一株当り利益も高くなりますので、より高い株価が期待できる効果を狙っているものと推察されます。

一方で、IFRSでは毎期のれんの減損テストを行います。将来キャッシュフローの割引現在価値がのれん簿価に満たない場合、差額が減損処理されることになります。減損処理が行われると損益が大幅に悪化してしまいますので、IFRSを適用する場合、将来の影響も十分考慮する必要があります。

こうした減損テストは株式のDCF評価と同様に、事業計画や割引率に主観が介在しますので、財務諸表利用者は十分留意する必要があります。有価証券評価における株価の回復可能性の見積もり、税効果会計における欠損金の回収可能性の見積もり、退職給付債務計上における各種基礎率や割引率の見積もり、資産除去債務の見積もりなど、2000年の会計ビックバン以降の各種会計基準の導入は、斜めから見れば全て会計に主観を持ちこむ改正です。東芝の工事進行基準の悪用による利益操作も総費用や進捗度の見積りという主観が介在する基準ゆえに行い得たものであり、会計基準の改正により経理操作の余地が高まっている点が一般に理解されていない点が問題と考えています。

こうした見積りを検証するのが公認会計士による会計監査なのですが、事業のプロが立てた見積りに(会計はプロでも)事業の素人である会計士が異を唱えるのは非常に難しく、現行の会計監査制度の限界を感じます。

以前、会計士として上場企業監査を行っていた時代は、税務基準の非上場企業の決算書を一段低く見ていましたが、税理士として非上場企業の税務基準の決算書を多く見る中で、税務決算書は余計な見積もりがなされておらず、意外に有用な資料であるとも思うようにもなりました。(金商法会計ではP/L処理が理論的に純化されることによる欠点を、キャッシュ・フロー計算書という別の書類の導入で補完しているということも言えますが。)

M&Aにおける財務DDにおいても、ターゲットは上場企業だからDDは形式的にやっておけばよい的な理解があると思いますが、むしろ上場企業であるからこそ、会社や監査人の主観により開示数値が作られているという視点は持っておくべきかと思います。

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