COLUMN
所長の宮口です。最近、IPOに向けた非上場会社の株式評価を依頼されることが多いのですが、フィンテック系のベンチャー企業(VB)の株価評価を行った際、ベンチャーキャピタル(VC)の優先株出資が多数入っており、非常に勉強になりました。昨日TMI総合法律事務所の弁護士によるセミナーにも参加しましたが、最近のVC出資の大半は種類株出資とのことです。私も2000年のIPOバブルの時代には証券会社で公開引受けを担当していましたが、当時のVCはほぼ全て普通株出資でしたので、時代の流れを感じます。シリコンバレーのベンチャー企業のファイナンススキームを輸入したものですが代表的な商品設計を以下、ご紹介します。
1.日本版コンバーティブルノート(Convertible Note)
ベース:転換社債型新株引受権付社債
利息:無利息
満期及び償還:3年後に額面償還
転換価格:①今後行われる増資の発行価格の80%に相当する額と②1億円÷発行済株式総数のいずれか低い方
シード期のVBでValuation(株式評価)が難しい場合に、手っ取り早く資金調達する際によく用いられる手法です。転換価格につき今後の増資価格の80%水準とすることにより、常に利益が得られる状態を確保できます。また増資価格が跳ね上がった場合に備えて上記②のように一定のキャップが設定されるケースが多いようです。
2.種類株式
シード期を脱したVBに対するVC出資は以下のような商品設計の種類株式が多いようです。
優先配当:出資額☓数%の優先配当権(参加・非累積型)
残余財産分配:出資額相当額の優先分配権(参加型)。M&Aなど流動化イベント発生時には清算とみなして同様の取扱い(みなし清算事由)
取得請求権:いつでも普通株式1株に転換可能
取得条項:IPO申請の取締役会決議時に強制的に普通株式1株に転換可能
VB投資のリスクを軽減するために優先分配権を定めて出資額の回収を図る設計となっています。通常、VBはIPOに至る過程で数次のラウンドの増資を行いますので複数の優先株式が併存することになりますが、一般的には後発の増資が優先的に分配を受ける権利を有する設計にするケースが多いとのことです。日本の上場実務上、原則として種類株式の持越しが認められていないため、IPO申請前に取得条項が行使され強制的に普通株に転換されます。
こうした株式ををどう時価評価するかはとても悩ましい問題ですが、日本の会計基準上、絶対的な基準はありません。
公認会計士協会が公表している「種類株式の評価事例」では、普通株式に優先分配権分のプットオプションが付されたものと整理して、「優先株式時価=普通株式時価+プットオプション価値☓行使確率」で評価する手法が紹介されています。この場合、プットオプション価値はブラックショールズモデル等で評価するにしても、オプションの行使確率は主観が介在せざるを得ないという問題が残ります。なお、上記評価事例では、VC投資のM&AによるEXITの実績データから80%とされています。
また、有限責任監査法人トーマツの経済産業省向け報告書「平成23年度ベンチャー企業における発行種類株の価値算定モデルに関する調査」では、米国の会計士協会が公表したガイドラインが紹介されており、優先株式は普通株式ともに企業価値をシェアするコールオプションであるとの整理のもと、オプション評価モデルにより、優先株の評価を行う手法などが紹介されています。ただし、この場合も直近の増資価格が将来期待も含めた株式の公正価値を示すとの理解のもとで、増資価格を持って時価とする手法(backsolve method)が併用されるようであり、種類株式時価の定量化の難しさが感じられます。(米国の会計実務に関する理解が浅いため、誤りあればお教え頂けると幸いです。)
なお、優先配当権についてはIPOを目指すVBは通常配当をすることは想定されていないので付与する意味は薄く、仮に付与されていたとしても時価評価上、考慮する必要はないものと思います。
以上、半分以上、自分の備忘のために記載していますがご参考まで。証券会社を退職して10年以上期間が立ちますが、肌感覚は残っていますので、これを機に最新実務のアップデートに努めて行きたいと考えています。通常の会計士・税理士よりは知見とネットワークを有していますのでVBやVCの方はお気軽にお問い合わせください。
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